閉口

旦那の顔色が良くなったと言っても、
まだまだ全然青白い、というか、微妙に黄色いです。
普通に病人の表情です。

以前、まともに顔も見てなくて、ある時ふと旦那の顔を見たら
頬がこけて顔色がドス黒く、更に無精髭で不健康&不潔でびっくりした事がありました。
もう、驚いたどころではなくて本能的に病院に連れて行かないと!!って感じました。
そして、散々説得とお願いをしたのですが、忙しいと言って病院には行ってくれようとしません。
(何が忙しいんだ…)

でも、とてもじゃないですけど普通の姿ではありませんでした。
クロマニョン人?って思うような風貌の旦那を放っておく事はできず、
思い切ってパソコンのコンセントを引っこ抜きました!!!

「シュ~~~~ン…」

と不自然な音と共にパソコンの電源が切れました。

ふと顔を上げると、物凄い形相の旦那がこっちを睨んでいて
すっと立ち上がると私の腕を掴むなり、

「dfgfれんれあjkgれあんjれあえが!!!!」
(多分、「なんてことすんだよ!!!」と言っていたと思う…)

と、何かわめきながら私を壁にぶつけました。

痛みは全く感じませんでした。
恐怖で感覚が全てマヒし、何も感じない、何も考えられなくなっていました。
目の前にはジャンクフードでぶくぶくになった悪魔が立ち塞がっていて、
私は「もう逃げる事は出来ない」と察知しました。
今にも襲い掛かってきそうなその悪魔は私が今までかつて見たことが無い
怒りと混乱の表情をしており、この世のモノとは思えない生き物でした。
震えて声が出ません。悪魔が私を押し倒して両手を押さえつけ馬乗りになった瞬間、
私は涙と共に声にならない叫びが出てきました。

「ゆるしてください…」

やっと出てきた最初の言葉です。
涙でボロボロになりながら何度もそう言いました。

「ゆるしてくださいゆるしてくださいゆるしてください…」

声になっていたかどうか解りません。
何故そんな言葉が出てきたのかも解りません。
私はただ病院に行って欲しかっただけなのに…
ほんの少しで良いから私の言う事に耳を傾けて欲しかっただけなのに…

悪魔は許す気になったのか、それよりゲームが大切だったのかどうか解りませんが、
そのまま、再度パソコンの方に向かっていきました。

床に横たわったまま、私は少しずつ今起こった出来事の状況が解ってきて、
怖くて悔しく悲しくて涙が溢れ出てきました。
声を殺して泣いていたのですが、そのうち大声をはり上げて泣いていました。
駄々っ子のように手足で床をドンドン叩き、吠き続けました。

涙が涙を誘い、泉のようにどんどん溢れ出てきます。
喉が枯れ始めた頃、近所のどこかから「笑点」の音楽が聴こえてきました。
それを聴いていると、何故か悲しみがどんどん大きくなって…
それはやがて絶望になって…

悪魔はそんな私に構う事なく、せわしくキーボードを叩いていました。

そう遠くない過去の日曜日の夕方の出来事でした…